開発の生産性を上げたい。そう思って手に取ったのが『誤解だらけの開発生産性』でした。
読んでいちばん残ったのは、開発生産性の数値を目標にすると、よくないことが起きるという話です。それ以来、なるべく数値を目標にしないようにしています。
結論から言うと、チームの目標を決めたり、メンバーを評価したりする立場の人に読んでほしい1冊です。一方で、具体的な解決策を求めて読むと、物足りなさが残るかもしれません。
PARTS LIST /目次
誤解だらけの開発生産性はどんな本か
書誌情報と目次は、紀伊國屋書店のページに載っている出版社内容情報によるものです。出版社の紹介によると、架空の開発現場を舞台にしたストーリーパートと、解説パートが交互に進む作りです。エンジニア、上司、デザイナー、開発マネージャー、PM、QA、サポートと、立場ごとに「開発生産性」という言葉の受け止め方が違うことを描いています。
章は7つで、すべての章題に「重圧」が出てきます。
- 第1章明日までに改善して!と言われる重圧
- 第2章開発生産性の目的を求められる重圧
- 第3章測れない開発生産性を求められる重圧
- 第4章重圧から生み出される小手先の指標
- 第5章開発リソースは足りないのに増え続ける重圧
- 第6章エンジニアだけが開発生産性を求められる重圧
- 第7章開発生産性を上げるだけのエンジニアからの脱却
目次を見る限り、第3章と第4章が「測る」「指標」を正面から扱う章です。第7章で、生産性を上げるだけのエンジニアから抜け出す話に進みます。
読んだきっかけ|生産性を上げたかった
読んだ理由はシンプルで、開発の生産性を上げたかったからです。上げ方のヒントがあればと思って読み始めました。
刺さったところ|数値を目標にするとよくない
上げ方を探して読んだのに、いちばん刺さったのは「開発生産性の数値を目標にするとよくない」という話でした。
数値を測ること自体が悪いわけではありません。問題は、その数値が目標になったときです。数値を上げること自体が目的になると、本来上げたかったもの(価値を届ける速さや質)とずれていきます。
これは開発生産性に限った話ではなく、一般に「グッドハートの法則」と呼ばれる現象です。開発の指標を研究しているDORAも、指標の解説ページで指標を目標にするとチームが数値を操作しようとしやすくなる、と注意しています。「年末までに毎日複数回デプロイする」のような一律の数値目標は避けるべき、という書き方です。
数値が目標になると、何が起きるか
説明用の例です。「1人あたりのプルリクエスト数」を目標にしたとします。
PRを小さく分けること自体は、レビューしやすくなるので悪いことではありません。ただ、「数を増やすため」に分け始めると、数値と実態がずれていきます。
読んでから変えたこと|なるべく数値を目標にしない
読んでから変えたのは、なるべく数値を目標に持たないことです。
数値を上げる近道が選ばれやすい
数値と実態がずれても気づきにくい
数値は状態を知るために見る
変化があったら理由を話し合うきっかけにする
DORAの解説ページでは、ほかにも、1つの指標だけで判断しない、性質の違うチーム同士を比べない、チーム間の競争に使わない、といった注意点が挙げられています。数値を目標にしないなら、数値は「チームが自分たちの変化を知るための道具」として使う、ということです。
開発生産性の指標と、目標にしたときのゆがみ
「数値を目標にしない」と言っても、どんな数値があるのかを知らないと話が進みません。開発生産性の指標としてよく使われるのが、DORAの5つの指標です(この本の内容ではなく、DORAの公式の解説によるものです)。
指標の名前と意味はDORAの指標の解説ページによるものです。右の列は、目標にしたときに起こりがちなことを、説明用に私が考えた例です。
デプロイ頻度
失敗したデプロイからの復旧時間
デプロイ手戻り率
DORAは、速さと安定の指標を組み合わせて見るように勧めています。どちらか1つだけを追うと、速さのために品質を落としたり、安定のために出すのを怖がったりするからです。研究では、速さと安定はトレードオフではなく、うまくいっているチームは両方とも良い、とも説明されています。
1つの数値を目標にするとゆがむ。だから複数の数値を、目標ではなく状態を知るために並べて見る。この本で刺さった話と、DORAの注意点は同じ方向を向いています。
物足りなかったところ|解決策は少なめ
物足りなかったのは、解決策があまり書かれていなかったことです。生産性を上げたくて読んだ身としては、「では、どうすればいいのか」の部分をもっと知りたかったです。
出版社の紹介では、手法やチェックシート、章ごとのまとめが用意されているとあります。ただ、タイトルや出版社の紹介を見ても、重心は「何が誤解なのか」「立場によって開発生産性の意味がどう違うのか」を知るほうにある本です。すぐ使える改善の手順を求める人は、そのつもりで読むと期待とのずれが少ないと思います。
タイトルどおり、開発生産性をめぐる誤解を解くのが中心です。具体的な指標の取り方や改善の手順は、DORAの公式の解説など、別の情報とあわせて読むと補えます。
今のレベル別の読み方
ストーリー形式の本ですが、立場によって先に読む章を決めると、得るものがはっきりします。
向いている人・向いていない人
- 向いている人:チームの目標を決めたり、メンバーを評価したりする立場の人。開発生産性の数値を目標に置こうとしている人
- 向いていない人:開発生産性を上げる具体的な手順を、すぐに知りたい人
出版社は「上司から開発生産性を求められて、困っているエンジニア」を対象読者に挙げています。私は逆に、求める側の人にこそ読んでほしいと感じました。
あわせて読みたい
- システム開発と「具体と抽象」の書評:数値(具体)と目的(抽象)を行き来する考え方
- アジャイルのスプリントとは:チームで改善を回す進め方
読んだ本はほかにも、トムの本棚に並べています。
よくある質問
Q. ストーリー形式とは、どんな作りですか?
出版社の紹介によると、現場の場面を描くストーリーパートと、その場面を説明する解説パートが用意されています。章ごとに学んだことを確かめる「まとめ」もあります。
Q. エンジニアでなくても読めますか?
読めます。登場するのはエンジニアだけでなく、上司、デザイナー、PM、QA、サポートなどです。開発チームと一緒に働く立場の人にも向いています。
Q. 電子版はありますか?
あります。紀伊國屋書店のページでも、電子版ありと案内されています。
| REV. | DATE | 内容 |
|---|---|---|
| 3 | 2026-10-16 | 図解を描き直し(図面のデザインにそろえた) |
| 2 | 2026-10-14 | 一人称と言い回しの表記をそろえた |
| 1 | 2026-10-12 | 初版 |
目標になっていたら、その数値で本当に上げたかったものは何かを、一言で書いてみる。そこが、数値の代わりに見るべきものです。
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